メコンの落日 第四部(シナリオ)

                                            悠々亭味坊

○タイトル
   「アタイ王国首都アリタヤ」

○同・警察病院(夜)
   玄関脇に停まっているパトカー。

○同・病室(個室)入口前
   警官Aが緊張した表情で警戒に当たっている。

○同・病室(個室)の中
   ベッドに横たわる胡光伸。カッと眼を開けて天井を見詰めている。毛布の上に投げ出さ    れている両腕は包帯でまかれている。両手首がない。毛布からはみ出した両足は手錠   をかけられベッドにつながれている。
   ベッドの側で椅子に座り監視する警官B。
   壁にはアタイ国王の写真つきの日めくりカレンダーが貼られている。
   一九九六年十月二十日。

○(回想)アタイ王国首都アリタヤ郊外バンセーンビーチ桟橋(夜)
   軍用ナイフを突き出す胡光伸が海側にビーチ側に脇差を片手八双に構える岩本巌。身   じろぎもせず対峙する二人。その間約三メートル。突然疾走する巌。
   脇差が一閃しナイフを掴んだ右手首が海に飛ぶ。胡と擦れ違い、海側に立つ巌。数呼    吸後、再び疾走する巌。
   パンチを振るう胡光伸の左手首が脇差の一閃で海に飛ぶ。
   茫然と突っ立つ胡光伸。

○元の病室
   カッと目を見開く胡光伸。
胡「小僧!」
   反射的に立ち上がる警官。
   胡光伸は天井を見詰めたまま、警官には一瞥もくれない。

○同・警察病院個室(夜)
   カレンダーの日付十月二十二日
   ベッドで寝ている胡光伸。
   ベッドの片側で椅子に座ってテレビを見ている警官B。
   目をあける胡光伸。警官Bの様子を窺い、静かに両足を引っ張る。軟体動物のようにく   るぶしが縮まり、ヌラリと手錠を抜ける。
   相変わらずテレビを見ている警官B。 背後から襲い警官Bの首筋に食らいつく胡光伸。   包帯のまかれた腕が警官の口を押さえている。
   倒れる警官B。
   包帯をとく胡。手首から指が生えかかっている。胡は倒れた警官の制服をはぎ、手早く   身に着け、裸の警官をベッドに運び毛布をかぶせてから個室を出る。

○同・個室入口前)
   看護婦と喋っている警官A。出て行く警官の後ろ姿を見るが、胡とは気づかない。

○警察病院玄関脇
   停まっているパトカー乗込む胡。
   発進するパトカー。
                 (F・O)
一人旅お助けクラブ

○(F・I)シームロ通りに面する小さな食堂
   奥で昼食を取るデビッド。
   食堂に入ってくるプラパット。デビッドと背中合わせにすわる。
   プラパットに気がつき飯を食べながら、
デビッド「よくクビがつながってるな」
プラパット「皮一枚でつながっている。胡を 捕まえるという条件付きだ。(声をひそめて)デビッド、手を貸してくれ。奴は若手 将校を煽って、王子を擁立させる気だ。(さ らに声をひそめて)ということは、現国王と 王女を排除するということだ。途方もない 企みだが、奴なら容赦なくやるだろう。そ の前になんとか手を打ちたい」
デビッド「軍、警察に人はいないのか?」
プラパット「いないね。奴に勝てるのはおタクのチームだけだ。特にあの坊やは実際に 勝ったじゃないか」
デビッド「分かった。奴はいづれ決着をつけなければならん相手だ」
プラパット「ありがたい。恩にきるよ」    
   注文を取りに来たウェイトレスを無視して食堂を出るプラパット。

○タイトル
   「国立テレビ放送局」

○国立テレビ放送局前(朝)
   街路を占拠する戦車、装甲車、軍用トラック。
   サブマシンガンを持って警戒に当たる兵士たち。
   遠巻きに見守る群集。

○タイトル 
   「総理大臣公邸」
   
○総理大臣公邸前
   門前に戦車と十数人の武装兵士。
   転がっている警官の死体。
   塀際に軍用トラックが停車している。
   邸内から兵士に両腕をとられて出て来る国民党総裁、総理大臣バハーン。
   バハーンと一緒にトラックに乗込む兵士たち。
   発車するトラックと戦車。

○タイトル 
   「統一党ピカネ総裁邸」
   
○統一党ピカネ総裁邸前
   邸内から兵士に両腕をとられて出て来るピカネ。
   軍用トラックに乗せられるピカネ。
   発車するトラック。

○国立テレビ放送局スタジオ内
   マイクを前に声明文を読み上げるラリット陸軍副司令官。
   右にサヌーン第四装甲師団長。
   左にスラチャク第二歩兵連隊長。
カメラマンの後方に控える武装兵士、多数。

○シンサンジム食堂
   台所で食事の下拵えをする二人のメイド。
   テレビの番組が突然打ち切られ、音声に国歌が流れ、画面に国旗が映される。
   二人のメイド、顔を見合わせ手を休めてテレビを見る。
   国歌が終わって画面に映る三人の軍人。
   画面下、7時5分を示すテロップ。
声明文を読み上げる中央のラリット大将。
   ロードワークを終えて食堂に入ってくる山室、ビリー、巌、桃子、練習生たち。
   手招きして山室をを呼ぶメイドA。
メイドA「会長さーん、ちょっと来て・・・これなんですか」
   メイドの真剣な顔につられ、一足飛びにテレビの前へ行く山室。
   続くビリー、巌、桃子、練習生たち。
   画面を見ながら、
山室「あーあ、とうとうやりゃあがった!」
ビリー「だから言わないこっちゃない。証拠 だヘッタクレだって、悠長なことを言って るからやられちまうんだ。両端の若いのを 捕まえてしまえばよかったんだ。実行部隊 を動かしてるのはこいつら二人だろう。真 ん中の年寄りは担がれているだけさ」
巌「いろいろ御託を並べているが、肝心の王 室については知らんぷりだな。オーナーの 情報に間違いなけりゃあ国王と王女が狙い だろうに」
ビリー「アホッ、国王を捕まえたなんて一言 でも言ってみろ、みんなにそっぽ向かれて たちまち自滅だ」
巌「7チャンに回してみな。言ってるかもし れねえ」
ビリー「オッと、そうか、7チャンはモチッ ト大将が総裁だったな。押さえられてなければいいが・・・」
   チャンネルを回すビリー。
   画面に男性アナウンサーが映る。
   興奮してうわずった声でニュースを読んでいる。
アナウンサー「・・・総理大臣、内務大臣ほか、有力閣僚が拘禁された模様です。また 統一党総裁ピカネ氏を始め、野党幹部数名 が連行されたとの情報があります。(アナ ウンサーに原稿が手渡される)ただいま入っ た情報によりますと、ティラポン国王陛下、 サラキット王女は、王宮より脱出され、第 一軍司令部のあるラチャシマに向かわれた 模様です。軍部、政界、財界の有力者もこぞってラチャシマに向かっているようです。 クーデタは軍部の一部不平分子によっておこされたものと・・・」
   画面、音声が突然消える。
ビリー「クソッ、手が回ったな」
   チャンネルを回すビリー。民間放送はすべて打ち切られている。
   電話が鳴る。
   勢い込んで受話器をとる山室。
山室「はい、シンサンジムです」

○デビッド邸居間
   机の端に腰掛けて受話器に向かっているデビッド。
   傍らで野戦服を着たケビンが大きなバッグを開け、床に置かれた銃器類、解体したスコープ付きのライフル、拳銃、弾倉、銃弾、手榴弾などを無造作に入れている。
デビッド「プラパットからの連絡では、つい先程国王と王女はヘリで王宮から脱出された。行く先はおそらく第一軍司令部のある ラチャシマだ。ここには陸軍司令官のモチット大将がいる」

○シンサンジム食堂
山室「はい、それはいまテレビで見ました」

○デビッド邸居間
デビッド「胡光伸が統一党幹事長のワンチャイを連れてラチャシマ方面に向かった。混乱に乗じて、国王に近づくつもりだろう。王妃と王子は王宮に残っている。国王と王 女を脱出させたのは、胡光伸の罠に違いな い。ビリー、巌を警察庁にやってくれ。こ ちらからはケビンが行く」
   ケビンに合図を送るデビッド。
   片手をあげ、ウィンクして応えるケビン。ふくらんだバッグを肩にすると軽快なフットワークで居間を去る。
デビッド「警察庁のへりを使わせてもらう。 これは警察長官の了解済みだ。しかしクーデタ派の手で押さえられる可能性もある。急げ!」

○シンサンジム食堂
山室「ちょっと待って下さいよ、オーナー。 ビリーと巌に国王を警護させるつもりですか?」
   これを聞いて受話器に耳を寄せるビリー

○デビッド邸居間
デビッド「そうだ。ラチャシマまでの空の警護、着いてからの陸の警護。ビリーが喜びそうな仕事だ。ウチのケビンも喜んでいる」
   
○シンサンジム食堂
山室「アホとちがいますか。相手には戦車も あればロケット砲もあるんだ。ムエタイ坊やがどうやって王様を守るというんです?」
   ビリー、受話器に向かってどなっている山室に、
ビリー「ごちゃごちゃ言ってる間に、王様の ヘリが襲われたらどうするの。会長が腹切ったっておっつかないよ」
   と言い捨てて、
ビリー「巌、行こうぜ」
巌「オーケー」
山室「アホッ、どこへ行くのか分かってんのか」
ビリー「どこへいけばいいんです?」   
山室「警察庁だ」
   桃子、出て行こうとする二人に追いすがって、
桃子「お兄チャン、わたしも行く」
   ビリー、立ち止まり、
ビリー「オッと、そうだった。胡光伸とさしで闘えるのは桃子と巌しかいねえんだ。桃子、これを忘れちゃいけないよ」
   と懐剣を抜いて構えるジェスチャー。桃子「お兄チャン、いいのね」
   巌に念を押す桃子。
巌「ヨシ、こうなったら最後まで一緒に突っ走ろう」
   巌、腹を括って桃子に応え、ビリーに向かって、
巌「ちょっと待ってくれ、刀を取って来る」
   二階にかけ上る巌。追う桃子。
   脇差を持って二階から下りてくる巌。懐剣を手に巌に従う桃子。
   ビリー、巌、桃子、食堂を飛び出す。

○同・玄関前
   フルフェイスのヘルメットをかぶリ、
   オートバイにまたがるビリーと巌。
   桃子もヘルメットをかぶり、巌の後ろにまたがる。
   爆音をあげる二台のオートバイ。
(DIS)

旅のよろずや

○警察庁裏手ヘリポート
   主翼、尾翼を回転させている二台のヘリ。コックピットにはパイロットが乗っている。
   一台に乗込むケビン、ビリー、巌、桃子。三人はケビン同様すでに野戦服に着替えてい   る。
   他の一台に乗込む警察特殊部隊隊員。
   飛び立つ二台のヘリ。

○アリタヤ上空、王室用特別製ヘリコプターキャビン内
   キャビン中央にすわるティラポン国王とサラキット王女。
   前後左右を固める王室警護局隊員。
   
○同・コックピット内
パイロット「・・・こちらRB・・・こちら RB・・・第一軍司令部へ国王陛下より第五緊急態勢を命ず」
第一軍司令部通信室通信員の声「こちら第一 軍司令部・・・了解。第五緊急態勢。ただちに警護ヘリを向かわせます。現在位置をどうぞ・・・」

○ラチャシマ第一軍司令部ヘリポート
   待機する三台のヘリに、バラバラと乗込む第一軍特殊作戦部隊隊員。
   次々に飛び立つ三台のヘリ。

○特殊作戦部隊ヘリコプター、キャビン内
   見慣れない隊員二名に詰問する班長。
班長「貴様、名前は?」
殺し屋A「はい、ナレートであります」
班長「貴様は?」
殺し屋B「はい、ダムロンであります」
班長「いつからSWATになったか?」
ダムロン「はい、今日からであります」
班長「なに!?今日から・・・」
   ナレートがサイレンサーで班長を撃ちたおす。続けざまにサイレンサーを発射するナレ    ート。
   ダムロンも反撃しようとする隊員を素早く撃ち倒す。
   ナレート、振り向くパイロットを無造作に撃ち倒し、操縦席にすわる。
   狙撃銃を組立てるダムロン。
ダムロン「準備完了。標的に寄せろ」
   ナレートに向かって怒鳴り、キャビンのドアを細く開けるダムロン。
   
○狙撃銃のスコープ
   ヘリのコックピットが近づいて来る。
   パイロットの顔がはっきり見える。
   一発の銃声で横に倒れるパイロット。
   傾くヘリ。連続する射撃音。テイルパイロンが吹き飛び、錐揉み状態のヘリ、画面から    外れる。
   もう一台のヘリコプターが映る。
   ドアが開き、サブマシンガンを構える隊員、ダムロンの狙撃銃で倒れる。
   キャビン内から激しい応戦の銃声。
   近づくコックピット。
   ダムロンの狙撃で倒れるパイロット。
   傾くヘリ。
   倒れたパイロットに代わって、コントロールスティックを握る隊員、再び一発でがっくり首   を折る。
   急降下するヘリ。

○ラチャシマ郊外
   墜落炎上する二台のヘリコプター。

○ナヨク上空
   国王のヘリを先導する警察特殊部隊のヘリ。
   後方にケビン、ビリー、巌、桃子の搭乗するヘリ。
   前方に黒い小さな機影が見える。

○同・警察特殊部隊ヘリ、コックピット内
パイロット「こちらRB、こちらRB、応答 願います・・・」
ナレートの声「こちら第一軍SWAT、こち ら第一軍SWAT,国王陛下を警護します ・・・」
   ぐんぐん近づくヘリ。

○同・ケビン、ビリー、巌、桃子の乗るヘリ、キャビン内
桃子「ああ、胸がザワザワする。お兄チャン、感じない?」
巌「俺は尻の穴がこそばゆいぜ」
   巌の冗句を無視し、懐剣の柄を握り目を閉じて精神を集中する桃子。
桃子「敵よ!ヘリコプターの中!」
ビリー「敵だ?」   
   サブマシンガンを片手に持ち、キャビンのドアを開けるビリー。
   方向を変え、国王の乗るヘリに並びかけるヘリが見える。

○同・第一軍SWATヘリ、キャビン内
   狙撃銃のスコープを覗いて狙いをつけるダムロン。

○同・狙撃銃のスコープ越しに
   国王の乗るヘリのキャビン。
   ドアの窓から警護局の隊員に囲まれた国王の顔がわずかに見える。
   一瞬の静止後、スコープはゆっくり移動しコックピットを映す。
   コックピット内のパイロットの顔。しだいに大きくなる。

○同・ケビン一行の乗るヘリ、キャビン内
   懐剣を握る桃子。
桃子「エイッ!!」

○同・狙撃銃スコープ
   激しくゆれる画面。

○同・殺し屋の乗るヘリ、キャビン内
   激しい揺れで外に投げ出されそうになるダムロン、銃を捨て、ドアにしがみつく。

○同・ケビン一行の乗るヘリ、キャビン内
   並行する殺し屋の乗るヘリ。
   コックピットめがけてサブマシンガンを乱射するビリー。
   狙撃銃を構えていたケビン、ビリーに向かって、
ケビン「バカ、やめろ、王様のヘリに当たるぞ」
   言い終わらないうちに殺し屋のヘリが急降下を始める。
ビリー「ヤッター、ざまあみろ・・・ケビン、俺の腕はそんななまくらじゃないぜ」
   急降下するヘリの行方を目で追うケビン、ビリー、巌、桃子。

○ナヨク雑木林
   墜落炎上する殺し屋のヘリコプター。
    (DIS)

○ラチャシマ第一軍司令部ヘリポート
   着陸する警察特殊部隊のヘリと、ケビン一行を乗せたヘリ。
   最後に国王を乗せたヘリが着陸する。キャビンのドアが開く前にその周囲を固める特殊   部隊隊員とケビン一行。
   ドアが開き、ヘリから下りる国王と王女。
   出迎えるモチット第一軍司令官。

○同・第一軍司令部所属の迎賓館内廊下。
   要所要所に立つ第一軍特殊部隊隊員。
   その中に巌とビリーがいる。
   料理室からワゴンを押して出てくるウェイターとウェイトレス。   
   廊下を渡り王室専用食堂に入って行く。
   遠くから見ていたビリーと巌、顔を見合わせる。
ビリー「巌、見たか?」   
巌「ああ、見た。毒薬使いだ!」
   王室専用食堂の前に駆けつける二人。
   ドアの前を固めていた隊員が二人に飛びかかる。
   応援に駆けつけたほかの隊員が多数で二人を床に押さえつける。
ビリー「バカヤロ!俺を捕まえてどうする!」
巌「毒!毒!王様が危ない!!」
   隊員の一人、王室専用食堂に入って行く。
   隊員と一緒に出て来るモチット司令官。
モチット「どうした!」
ビリー「食べ物、飲み物全部捨てて下さい、毒が入ってる!早く!」
モチット「放してやれ」
   言い捨てて、慌てて部屋にもどるモチット司令官。
   
○同・王室専用食堂
   食卓にはすでに料理が並んでいる。
   国王のワイングラスにワインを注ぐウェイター。続いて王女のワイングラスへ。
   モチット司令官、部屋に入るなりすぐに強く、
モチット「国王陛下、食事はしばらくお待ちください」
   といってから大股でウェイターに近づき腕を取り、
モチット「キミは下がりなさい」
   ウェイター、腕を振りほどき、モチットにパンチを浴びせる。
   倒れるモチット。
   氷入れのバケットに手を突っ込み、底から小型ピストルを取り出し、国王に狙いをつけるウェイター(殺し屋C)。
   鋭く見返す国王。
   王女、国王をかばいながら、
王女「おやめなさい!」
   突然殺し屋の背中に突き刺さる脇差。
   うつぶせに倒れる殺し屋。
   立ちすくむウェイトレス。
   動じない国王と王女。
   殺し屋の背中から脇差を抜き取り、ワゴンの上のナプキンをとって血糊を拭き、鮮やかな手さばきで鞘に戻して一礼する巌。
   傍らで呆れ顔で見詰めるビリー。
   王女、巌に向かい、
王女「あなたの名前は?」
巌「岩本巌と申します」
王女「覚えておきましょう」
   さらに一礼して立ち去る巌。
   巌に倣うビリー。          (DIS)  
○同・大広間
   クーデタ派の拘束を逃れた政界、財界、軍部の大物たちが続々と詰めかける中に統一   党幹事長ワンチャイがいる。
   一わたり挨拶を交わしてから中庭に出るワンチャイ。
   周囲に人のいないのを確かめて携帯電話で話すワンチャイ。
ワンチャイ「・・・形勢はひどく悪い。国王 支持派がどんどん増えてます。逆転するには例の一件を早くやりとげないといけませんが、今までのところその形跡はありません」
胡光伸の声「そうか、それほど国王に人気があるか。ならば方針を変えよう。王子の擁立はやめる。ヤングタークスは捨てる。わたし自身が国王になる」
ワンチャイ「胡社長、そんな突拍子もないことを言われては困ります。できることをやっていただかないと・・・」
胡「わたしにできないことはない。ワンチャイ先生、すぐにわたしの部屋に来て下さい。とっくりごらんにいれますよ」
ワンチャイ「何をなさるのか分かりませんが、とにかく伺いましょう。なんとか打開策を練らないといけませんからな」
   庭を突っ切りあたふたと出口に向かうワンチャイ。

美容コスメ千家

○同・ノボテルホテル特別室
   机上のスーツケースから白い粘土状の物体を取り出し、床におく胡。
   ソファーにすわって見詰めるワンチャイ。
  胡、スーツケースからリモートコントロールのような器具を出し、
胡「面白い実験をご覧に入れましょう。これ であなたの体形をコピーします」
   とワンチャイに向けてボタンを押す。
胡「それからこれに光を当てます」
   と床の白い粘土状のものにリモコンを向けビームを当てると、ワンチャイの体形にそっくりなマネキンが出来る。
胡「ここでワンチャイ先生の皮膚組織を少々頂きたいんですがな。額の深いしわ、たるんだ首の皮なんかいかがですか。じかに切 り取っては痛いでしょうから、麻酔をかけてさし上げましょう」
   ワンチャイの首に注射する胡。
   驚愕で身動きできないワンチャイ。
   メスでワンチャイの首の皮をはぎ、マネキンの首に張り付ける胡。
胡「さて、もう一度光を当てるとどうなりますかな」
   胡がマネキンの首にビームを当てると、たちまち全身に皮膚組織がのびて行く。
   茫然と見詰めるワンチャイ。
胡「どうですか。これでワンチャイ先生のぬいぐるみができました。これをかぶるとワンチャイ先生になれるのですが、その前に 胡光伸の皮を脱いでおきましょう。人の皮を脱ぐとわたしは素顔にもどることになっておるんですがね、どうやら地球では自慢できる顔じゃないらしい。わたしの星では 男前で鳴らしたもんだが・・・」
   胡光伸の皮を脱ぐに従い、ワニに似た顔、太い手足があらわれる。
異星人「分かりましたかな。生きた皮さえもらえれば誰にでも変身できるんですよ。国王にだってなれるわけだ。さて、国王に近づくには先生に変身するのが手っ取り早い。それには本物のワンチャイ先生がいてはまずい。偽者の胡光伸はもういらない。ということは先生に胡光伸の皮をかぶって死ん でもらうという結論になりますな」
   皮をかぶりワンチャイに変身する異星人。
   気を失うワンチャイ。
   胡光伸の皮をワンチャイにかぶせ、腕に注射をして部屋を出るワンチャイに変身した異   星人。
(DIS)   

○ラチャシマ迎賓館小会議室前(夜)
   警護に当たる王室警護局隊員。
   隊員の中にケビン、ビリーがいる。
   モチット大将、ボディチェックを受けて中に入る。
   続いてワンチャイがボディチェックを受ける。
   ワンチャイのスーツケースの中身を調べる隊員。書類の下から白い粘土状のものを見    つけて不審げに、
隊員A「これは何ですか?」
ワンチャイ「彫刻の素材です。彫刻が私の趣味でしてな、どこへでも持っていくんです」
隊員A「これは?」
ワンチャイ「オヤオヤ、こんなとこに紛れ込んでいましたか。ごらんのとおりテレビのリモコンです・・・よろしいですかな」
   うなずき、ワンチャイを部屋に通す警護員。

○同・迎賓館小会議室内
   国王と王女が黒壇の大きな机を前にしてすわっている。
   机から離れて立つ侍従。
   国王と王女に向かい合ってワンチャイがすわっている。
   正面のホワイトボードの前でクーデタ派の動きを説明するモチット第一軍司令官。
モチット「・・・以上です。ヤングタークス を支持する部隊はありません。一握りのクー デタ派を除いて、わたしが全軍を掌握しております。従って彼らの自滅は時間の問題 と思われます。クーデタによる損害は最小限に押さえられるでしょう。しかしこういう問題を起こした責任は重い。国王陛下の前であえて申し上げますが、ヤングターク スを煽り、資金を提供した統一党幹事長の 責任は免れませんぞ」
ワンチャイ「ホホー、確かな証拠をお持ちのようですな。本来のワンチャイなら、陳弁これ努めて許しを請い、代償に野党一致してモチット内閣誕生に協力すると誓うところだ。国王陛下がわたしをここにお呼びになったのもそれをお望みだからでしょう。 しかし、あいにく今夜は別人のワンチャイが降参したくないと申しております。モチット大将、あなたを亡き者にしたいと言っておるんですな・・・」
モチット「幹事長、場所柄をわきまえなさい!」
ワンチャイ「大いにわきまえておりますよ。またとない場所柄だ」
   といって立ち上がり、モチットを一撃する。昏倒するモチット。
   立ちすくむ侍従にパンチを見舞い、国王をかばう王女の鳩尾に遠慮のない蹴りを入れる   ワンチャイ。
   気絶する侍従と王女。    
   腰に吊るした剣を抜く国王。
   無造作に近づくワンチャイ。
(DIS)

○同・第一軍司令部兵舎(夜)
   ベッドで休んでいる巌と桃子。
   突然起きあがる桃子。
桃子「アッ、王様が!」
   巌も起き上がり、
巌「王様がどうした?」
桃子「はっきり分からない・・・でも嫌なことが起りそう」
巌「ヨシ、ケビンとビリーに知らせよう」
   急いで兵舎を出る巌と桃子。

ブランドもの千家
   

○同・迎賓館小会議室内
   国王に呼び出され、部屋に入って来る医師二人、看護婦二人。
   王女を介抱している国王。
   国王に代わり王女を介抱する医師。
   意識を回復する王女。
   床に倒れているモチットと侍従を介抱する医師と看護婦。医師が気付けを嗅がすと意識   を回復する二人。
   首から血を流して倒れているワンチャイの脈を診て首を振る医師。
   
○同・廊下
   警護隊員の持つ担架で運び出されるワンチャイの遺体。
   警護隊員に混じってワンチャイの遺体を見送るケビンとビリー。
   そこへ駆けつける巌と桃子。
桃子「王様は?」
ビリー「無事のようだ」
桃子「よかった」
巌「あれはなんだ?」
ビリー「見た通り死体だよ」
巌「だからなぜ?」
ビリー「分からん」
巌「とにかく国王と王女は無事なんだな?」
ビリー「死体が運び出された時チラッと中が見えた。王様はピンシャンしてる。姫君は看護婦に付き添われて立っていた。大丈夫だ」
巌「桃子、どう思う?」
桃子「ご無事でよかったわ」
   小会議室のドアが開き、王女が看護婦に付き添われて出て来る。左右を見て、巌を認   めるとゆっくりと歩いて来る。
   ドッと周りを固める警護局隊員。
王女「巌、わたしの部屋に来て下さい」
巌「わたしの連れも一緒でよろしいでしょうか?」
王女「どなたです?」
巌「妹の桃子、ムエタイボクサーのビリー、元プロレスラーのケビン。ろくなもんじゃありませんが、お味方であることだけは確かです」
   王女、はじめて顔をほころばせて、
王女「可愛い妹さんね。そちらの豪傑さんも いらっしゃい」
   四人はかしこまって王女についていく。
   その周りを固めて移動する警護局隊員。

○同・王女私室内
   円卓を囲む王女、ケビン、ビリー、巌、桃子。
王女「・・・ワンチャイはいきなりモチットを殴りました。それから侍従、そしてわたくしと、あっという間の出来事でした。気がついた時にはワンチャイは死んでいました。わたくしには信じられません。先ずワンチャイの暴力。どこからあんな力がでてきたのか・・・」
ケビン「元ボクサーだった・・・なんてこと はないですか?」
巌「仮にそうだったとしてもお年ですからね、あっという間に三人を倒すなんて芸当は考えにくい」
王女「国王は残酷なことはお嫌いです。普段の国王なら間違ってもワンチャイをあんな風にはなさらなかったと思います。それにもっと不思議なのは・・・(言うべきかど うか迷って)国王の左目は義眼なのです。ところがわたくしが意識を回復した後に見た国王の左目は義眼らしくない」
ビリー「・・・らしくない?本物の目になったんですか?」
王女「義眼は精巧にできています。知らない人が普通に見ても分からないでしょう。で もわたくしには分かります。お側に十年以上も仕えているのですから。(声をひそめて)結論を言いましょう。悲しいことにあの方は国王ではありません。誰かが国王に成りすましています・・・」
   ビリー、ケビンに向かって、
ビリー「胡光伸の仕業だ!」
ケビン「とすると本物の国王はワンチャイにされたか?」
王女「そんなことが現実に起きるとは思えませんが・・・」
ケビン「これは岩本兄妹に任せるほかありません。超常現象のスペシャリストです。ただ、わたしにも予測できることですが、最悪の事態が起きているかもしれない」
王女「それはわたくしも覚悟しています。しかしこのまま行くと、あなたの見方に間違いなければ、超常界の何者かが我が国の国王となって、国民を指導することになる。あってはならないことです。わたくしの命に代えてもそれは防がなくてはなりません。(一人一人の目を見つめて)巌、桃子、それにケビン、ビリー、どうか手を貸して下さい」
   涙をたたえ、大きくうなづく桃子。
   ケビン、一礼し、巌、桃子、ビリーに、
ケビン「時間をあたえるとまずい。国王の権威でどんなことをやりだすかわからん。ここは一気に勝負をかけよう。巌、桃子、頼むぜ」
巌「オーッ、任せておけ。化け物にこの国は渡さねえ。さっそく乗込もうぜ」
   一行が立ち上がる前に、ノックなしにいきなりドアが開き、国王がモチットと共に警護隊員を従えて入って来る。
   ケビン一行を囲み、サブマシンガンを構える隊員たち。
   隊員二人、一行のボディーチェック。ケビンの拳銃、ビリーのサブマシンガン、巌の脇差、桃子の懐剣を取り上げる。
国王「サラキット、この者たちはクーデタの共犯者だ!」
   と言ってから、モチットに、
国王「逮捕しなさい。国家の転覆を企てる重罪人だ」
王女「何をなさいます。陛下をお助けしたのはこの者たちではありませんか」
国王「モチット、早く連れて行きなさい。処分は追って伝える」
   モチットの指示に従ってケビン一行を部屋から連行する隊員たち。

○同・迎賓館廊下
   モチット、ケビンに並んで歩きながら独り言のようにつぶやく。
モチット「陛下の様子がおかしい。王女は知っておられるか」
   まっすぐ前を向いたまま小声で応えるケビン。
ケビン「はい、ご存知です」
モチット「どうする?」
ケビン「お任せ下さい」
モチット「さしあたりローヤに入ってもらう。国王の命令だ。今は叛くわけにいかん」
ケビン「わかっています」
モチット「欲しい物があったら言ってくれ。何でも用意する」
ケビン「二人の守り刀を返してください。あれがすべてを解決する」
   不審げな顔つきのモチット。しかし思い直して、
モチット「後で持って行く。他には?」
ケビン「気をつけてください。陛下の中身は化け物です」
モチット「まさか」
ケビン「そのまさかです」
   二人の前を歩くビリー、モチットを振り返り素っ頓狂な声で、
ビリー「モチット大将、俺たちをどうしようっていうの。俺たちはずっと王様に忠勤を励んで来たんだよ。それをクーデタの共犯者 に仕立てやがって・・ ・」
   二人の警護隊員、銃口でビリーを小突き、前に急き立てる。
   
○迎賓館玄関前
   軍用トラックの周りで待つ兵士たち。
   警護隊員に代わってケビン一行をトラックに連行する兵士たち。
   指揮官に何事かを命じ、守り刀を手渡すモチット。
   挙手してから受け取る指揮官。
   出発する軍用トラック。

○迎賓館国王私室内
   電話をかける国王。
国王「明日午後四時、銃殺刑を執行する。政財界の幹部、テレビ局、新聞などマスコミにも連絡するように」
モチットの声「なんの調べもなしに極刑を執行するとおっしゃるのですか。中には十五才の少女もおるんですぞ。そんなことをマスコミの前で強行すれば内外からどんな批判が起きるか、英明な国王に分からないはずがありますまい」
国王「これは命令だ。国王の命令を聞けない者はその職を解任する。よろしいか」
モチットの声「わかりました。ご意向通りにいたします」
国王「反逆罪には厳しい処置をとる。これでクーデタ一味も震えて降伏するだろう」
   電話を切る国王。

○第一軍司令官室
   電話をかけるモチット。
モチット「・・・むちゃくちゃですな。サラキット王女、このままでは国がつぶれます」
王女の声「ケビンたちを逃がしたらあなたが 危ない。あなたは軍をしっかり掌握して下さい。国王の命令でも明日は発砲しないように、今のうちに段取りをつけて下さい。あとは彼らに任せましょう」
モチット「かしこまりました。できるかぎり彼らの働きやすいように取り計らいましょう」
   静かに受話器を置くモチット。
(F・O)
メンズ千家
(F・I)
○ラチャシマ第一軍射撃練習場(夕)
   丘の上空に雨季特有の黒く厚い雲が疾る。風が強い。
   丘の前に標的が等間隔にいくつも並んでいる。標的の前に白い柱が二本、五メートル    の間をおいて即席に立てられている。
   丘から百メートルくらい手前に射撃者の位置、さらに手前に屋根付きの教官、見学者の   席が設けられている。
   最前列中央付近の席にすわる国王と王女。その隣にモチット大将。
   左右後方に居並ぶ政界財界の指導者たち。
   射撃場の一隅に両脇の兵士に腕をとられたケビン、ビリー、巌、桃子がいる。
   テレビ局のカメラがこれらの全てを丹念に追っている。
   立ち上がり、兵士にむかって合図を送るモチット。
   柱に向かって歩く巌と桃子。両脇には兵士が付き添っている。隠し持った脇差を巌に、   懐剣を桃子に渡す兵士。
   巌、桃子に目隠しをして立ち去る兵士。
   目隠しをとらないまま、互いに歩み寄り、そして国王に向かう二人。
   巌は脇差を抜き、桃子は懐剣を抜いて正面で刃を交差させる。
   席を蹴って立ち上がリ、兵士に向かい腰のサーベルを抜き、刑の執行を命じる国王。
   動かない兵士たち。
   激高してモチット大将にサーベルを突きつける国王。
   王女をかばって側を離れるモチット。
   大地にサーベルを突き刺し、近づく巌と桃子を凝視する国王。
   巌と桃子、立ち止まり、刃を十字にかざし、裂帛の気合。
巌「トーッ!」
桃子「エイッ!」
   同時に咆哮する国王。
国王「ギィエーッ!」
   にわかに巻き起こる烈風、豪雨、稲妻、雷。
   皮膚がしだいに破れ、正体を表す異星人。
   どよめき、異星人の側を離れる人々。
   烈風、豪雨が襲い、よろめく巌と桃子。
   烈風とともに桃子に走りより、懐剣を叩き落す異星人。
   暴れる桃子を小脇に抱え、丘をかけのぼる異星人。
   懐剣を拾って追う巌。
   続くビリー、ケビン、兵士たち。
   
○同・丘の上
   気を失った桃子を傍らにおき、黒雲におおわれた天の一角を指差し咆哮する異星人。
   直径五メートルほどの円盤が黒雲を破ってあらわれ、異星人の真上上空で停まる。
   異星人に追いつき、脇差と懐剣を十字に構えて対峙する巌。続くビリー、ケビン、サブマ   シンガンの引金を引くが、ロックされたように動かない。
   銃を捨て太い鎖を取り出すケビン。軍用ナイフを抜くビリー。
   仁王立ちになり咆哮を発する異星人。
   巌の後方にいるケビンはよろめき、ビリーはがっくり片膝を折る。
   丘から転げ落ちる兵士多数。   
   巌だけはビクともしない。
   烈風をついて疾走する巌。
   咆哮する異星人。
異星人「ギェーッ!」
   応じる巌。
巌「トーッ!」
   異星人の横殴りの一撃を左手下段の懐剣がなぎ払い、右手八双の脇差が首筋を襲う
   異星人の右手が飛び、首筋から緑色の液体が吹き出す。
   異星人の脇を疾走してすり抜け、およそ十メートルの地点で反転して体勢を整える巌。
   振り向き、頭上にあげた左手を巌に向けて動かす異星人。
   円盤が動き、巌の頭上まで来ると急降下する。
   再び疾走する巌。
   背後から異星人の首に鎖を巻きつけるケビン。
   異星人に体当たりすると同時に懐剣で異星人の腹をえぐる巌。
   折り重なるように倒れるケビン、異星人、巌。
   体勢を入れ替え馬乗りになって異星人の首に巻いた鎖をなお締め上げるケビン。
   いつまでも痙攣を続ける異星人。
   石油タンクを運んでくるビリー。
ビリー「どけ、ケビン。こいつ、灰にするま で死なねえぜ」
   異星人に石油をまくビリー。
   桃子を背負う巌、ケビン、異星人から遠く離れる。
   石油に火をつけるビリー。
   倒れていた異星人、燃えながらも立ち上がり、円盤に向かって歩いて行く。
ビリー「ワーオ、まだ生きてるぜ、どうする !」
   ビリーが叫び終わらないうちに再び倒れる異星人。
   炎が一段と激しく立ち上る。
   異星人の引力が切れたようにフラフラと上昇する円盤。

○同・西の空
   烈風はおさまり、豪雨は止み、黒雲は消えて、巨大な夕陽が姿を表す。
   フラフラと飛んで行く円盤。
   突然、爆発し、四散する円盤。
   真っ赤に広がる南国の夕焼け。

                                           (終)

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