2003/2/14 投稿 白梅や同姓多き診療所
2003/2/14 投稿 寒梅忌ちくと一杯やりにけり
「ちくと一杯やる」のは、故藤沢周平さんの作品に時々出てくるセリフです。

味坊は今夜もまた「ちくと一杯」やって考えがまとまりません。頭の中が千鳥足です。

藤沢さんを偲ぶのは白梅の頃がもっともふさわしい。

細谷源太夫、青江又八郎の活躍を読みながら「ちくと一杯やる」のが、味坊の至福のときです。

藤沢さん、ありがとう。人生の先達にも一献献じますよ。
2003/2/14 投稿 札を繰る指のはやきや春の風邪
2001/11/14 佳作入選 群青の背に太き朱や夏祭
2001/11/14 投稿 ドリアンの腐臭濃き辻野犬群れ
2001/11/14 投稿 人の群れ裸電球暑を加ふ
2002/11/14 佳作入選 人妻の五指反らしけりなめくじら
「四畳半襖の下張り」は「女房は三度の飯なり。

立食の鮨に舌鼓打てばとて、三度の飯がいらぬといふ譯あるべからず。

家にきまった三度の飯あればこそ、間食のぜいたくも言へるなり」と説いていますが、

他方、お聖さんとかもかのおっちゃん共作の中年いろはカルタには「妻のネグリジェ姿は見飽きて」とあります。

通常の男はお聖さんのほうに軍配をあげますね。十年も一緒に暮らした女房なんぞ、ナニが悲しゅうて抱かんならんのや、というのがいつわらざる男の心情でしょう。

ところがそんな男でも人妻なら抱けるのです。通常の男は破目をはずせないがゆえに、常にいだく妄想があります。一度でもいいから人妻を抱いてみたい、そして五指を反り返らせるほどいかせてみたい、という妄想が・・・

すくなくとも味坊は、濡れてネバネバしたなめくじを見るたびに「無上にかじりつき鼻息火のやうにして、もう少しだからもっともっとと泣声出すも珍しからぬ」人妻を想像して、しばしば興奮したものです。

翌朝、爪を立てられヒリヒリする背中をガマンしなければなりません。もっともその程度ですめば幸いでしょう。江戸時代の不倫は御手討が当たり前だったのですから。

御手討の夫婦なりしを更衣                             蕪村
2002/11/14 投稿 懐にこれ収穫ぞ柿十余
2002/11/14 投稿 野分去り硝子微塵の湯殿かな
2002/11/14 投稿 翅ありや宙にとまりし赤とんぼ
2003/3/14 投稿 春立つやおらぶ領主の砂時計
2002/12/14 投稿 下総の雪の淡きや肘枕
2002/12/14 投稿 職なくて枯園に鬼うごめけり
2002/12/14 投稿 土間暗く農夫手練の頬かむり
2002/7/14 佳作入選 うぐひすや米研ぐ水のやはらかき
2002/7/14 投稿 台風裡喇叭ズボンの頼もしき
2001/6/14 投稿 妻子なく古里なきに五月晴
2001/6/14 投稿 魂揺らぐ今日六十の梅雨曇
2001/6/14 投稿 文字記号画像崩るる梅雨かな
2003/10/14 投稿 小商(こあきない)糸のほつれし簾かな
2003/10/14 投稿 朝霧や一粒朱き雪珊瑚
2004/5/14 投稿 肩口の哀れ裂けたる柘榴かな
2004/5/14 投稿 南総の空にあふるる若葉かな
2004/5/14 投稿 定年や尻っぱしょりの宿浴衣
2004/2/14 投稿 冬菫広報ひそと舞ひにけり
2004/2/14 投稿 水洟や算盤著(しる)き収納課
2004/2/14 投稿 老農の無造作に佇つ野焼かな
2003/6/14 佳作入選 白梅や同姓多き診療所
2004/1/14 佳作入選 小商(こあきなひ)糸のほつれし簾かな
2004/1/14 投稿 俎板の手際の音や去年今年(こぞことし)
2004/1/14 投稿 灯ありて客なきバスの二日かな
2004/1/14 投稿 WEBをさまよひ三日暮れにけり
2003/1/14 投稿 独酌の合方にせむ虎落笛
2003/1/14 投稿 唄囃子静まりたれば除夜の鐘
2003/1/14 投稿 年迎ふ樽酒の木の香りかな
2003/4/14 投稿 屋台とて庇ありけり花吹雪
2003/4/14 投稿 食むやよし性根曲がりの捨て胡瓜
2003/4/14 投稿 触れがたき背や竹夫人抱く娼婦
2004/9/14 佳作入選 ざっくりと肩口裂くるざくろかな
昨夜、藤沢周平さんの「用心棒日月抄」を読みながら悪党を切る痛快さに眠気がさめてしまいました。

肉を裂き骨を断つような感触が伝わってくる描写が要所要所に出てくるんですね。

藤沢さんは筆を抑えて斬り合の場面を描いていますが、それが返って読むほうには斬り合いの生々しさが伝わってくるのです。

藤沢さんは切り裂かれて死んでいくものの苦しみを承知していたのでしょう。だから抑制をきかせて描くのですね。

読者は間髪の差で勝利する青江又三郎に共感し、わくわくする。

腕を切られたり足を切られたりしながら青江又三郎が敵を倒す痛快さに、読者は思わず寝る時間を削ってしまいます。

しかし味坊の現実は敗戦に継ぐ敗戦です。

今日2009年4月15日裁判がありました。味坊の敗訴です。ざっくりと肩口を切り裂かれました。

予告解雇手当の請求裁判を起こした味坊は、ばっさりとやられました。

裁判前後の顛末を書くと100枚くらいになりそうなのですべて省略です。

万感をざくろに託す思いで、むかし作ったこの句を読み直したところです。
2004/9/14 投稿 甲虫先逝くは角すぐれけり
2004/9/14 投稿 湯殿前蛇くつろげる旅籠かな
2004/6/14 佳作入選 老農の無造作に佇つ野焼かな
2004/6/14 投稿 一家族灼くるバイクに乗りにけり
2004/6/14 投稿 鳥の巣や乳ぜりの口の五つ六つ
2004/3/14 佳作入選 黄塵のおよばぬ海の入日かな
2004/3/14 投稿 春疾風千切れし四手(しで)の行方かな
2004/3/14 投稿 大辞典閉じれば椿落ちにけり
2004/3/14 投稿 有象無象句碑白梅に敵(かな)ふべき
2004/4/14 佳作入選 風呂吹きや田舎小町の膝小僧
2004/4/14 投稿 春嵐自爆てふ字のひるがへり
2004/4/14 投稿 花冷の田面(たおも)小皺の寄りにけり
2004/4/14 投稿 一椀の玄米炊くや花の庵
2000/3/14 投稿 息白し嗅ぎては走る迷ひ犬
2000/3/14 投稿 枯野来て人の声聞く駅舎かな
2000/4/14 投稿 参道の振袖舞ふや花吹雪
2000/4/14 投稿 遠き明治花の吹き入るリキシャかな
2000/3/14 投稿 花吹雪やまず襟足濡らすとて
2002/10/14 投稿 古書街や自著一書なき秋の暮
2002/10/14 投稿 鱧(はも)の骨断つ切っ先の酒毒かな
バンコクでの事業に失敗し、借りていた教室の家賃さえ払いかねて、当座の資金を作るため、急ぎ日本へ戻って鮨屋に住み込んでいたときの句。

17文字を読むだけで当時の状況がありありと蘇ってくるから不思議です。

同じ寮に住んでいた鮨職人は60代後半のベテランでしたが、酒毒におかされていたせいか、
ネタを切るたびに刃先がふるえるのでした。骨を切り分ける際など、素人目にも危うくみえ、
味坊の境遇に重ね合わせて暗い気持ちになったものです。

その老職人は大腸を手術したとかで人工肛門をつけていましたから、毎日をだましだまし生きていたのではないでしょうか。

さらに厄介なことにバクチにめがない。給料の大半を競馬につぎ込むこともしばしばあったようです。

老職人の切っ先はふるえながらも一度決まると、一息に包丁を入れていく手さばきの鮮やかさは、見事でした。

鱧(はも)の骨切りは難しいと聞いています。酒毒におかされながら一か八かの刃をいれる老
職人を詠むため、あえて鱧を持ってきたのは味坊の創作です。

ここにマグロを持ってきては緊迫感がでませんね。

毎日を騙し騙し生きていることの裏には、のっぴきならない切迫感があります。

老職人と味坊はその点で同じ生き方をしていたように思います。
2002/10/14 投稿 蜘蛛の巣に残滓の翅の震へけり
2002/5/14 投稿 黄砂降る運河に洗ふ褓かな
2002/5/14 投稿 行く春や旧帝国の大理石
2002/5/14 投稿 一粒の血膨れけり花茨
2002/4/14 投稿 手折られてロビーを飾る山桜
2002/9/14 投稿 滴りやひっつめ髪のほどきたる
2002/6/14 佳作入選 春吹雪家族の欄の余白かな
2002/6/14 投稿 奴婢なれやギリリギリリと蟻を踏む
永年奴婢同然の扱いを受けてきた味坊は、蟻をギリリギリリと踏み潰すほどに世の中に恨み・ツラミ・僻みをつのらせた一時期があります。

正常者と異常者との境は紙一重。

アキバでナイフを振るった殺人者は、現実社会に受け入れられず、仮想社会で無視され、ついに紙一

重の境を越え、手当たりしだいに人を刺す異常者の域に踏み込んでしまった。

幼い頃から不遇だった一茶は、世間に寄食して育ち、ときには師と仰いでいた俳人にさえ盗人と疑われる。

夕燕われには明日のあてはなき        一茶

一茶が「ひねくれ一茶」と呼ばれるほどにひねくれた性格を形成したのは、むしろ当然だった。

涼風の曲がりくねって来たりけり        一茶

一茶を無宿人帳に名を連ねることから救ったのは俳諧でした。

一茶は、すべてに恨み・ツラミ・僻みをもって対しながら、俳諧を通して、自らを客観視する余裕を培っていた。

半生にわたる俳諧に対する勤勉さによって、ついに信濃の旦那衆が一茶を宗匠と認めたころ、一茶は小動物に愛情の目を注いでいます。

雀の子そこのけそこのけお馬が通る      一茶

やせ蛙まけるな一茶ここにあり          一茶

味坊も一茶に習い、世間への恨み・ツラミ・僻みをバネに、自分を茶にしながら、人に苦笑をもたらせる句ができればと思っているものの、

奴婢なれやギリリギリリと蟻を踏む
       味坊 


この句は恨みのみが前でていますね。反省。
2002/6/14 投稿 太き蛇脂(やに)切株に流れけり
2002/6/14 投稿 家なれば門灯ともせ蟇蛙
i田舎の夜は都会と違って闇が濃い。

深夜、草の戸に戻り、玄関のドアまでたどり着く前にけつまずいたりします。

木戸から玄関まで三つしかない敷石につまずくのだからかなり暗い。

味坊がそろそろと玄関に近づいたとき、蟇蛙が横っ飛びに逃げていきました。

自宅と思ってくれていたら、せめて門灯ぐらいつけておけよな。

家人のいない真っ暗な玄関を背に、蟇蛙につぶやいた味坊でした。
2002/8/14 投稿 拭ひても拭ひても汗鎌捨てリ
2004/7/14 投稿 古畳汗大の字を描きけり
2004/7/14 投稿 岩清水髪のほつれを咎めずや
2004/7/14 投稿 滴りや獣の奔る闇深々
2003/8/14 佳作入選 食むやよし性根まがりの捨て胡瓜
2003/8/14 投稿 腰縄のうたれしよりぞ遍路道
NHKアーカイブスの中で、四国の遍路道を住みかにする70過ぎの老人を追った報道番組がありました。

およそ6年も前のことですから、細部はもう曖昧になっているし、記憶違いもあるかもしれません。まずお断りをしておいて・・・

70過ぎか、ひょっとして80を越えている老人が、所帯道具を乳母車に積んで一年中遍路道を行ったり来たりしている。

芭蕉の言う「舟の上に生涯をうかべ馬の口とらへて老をむかふる者は、日々旅にして、旅を栖とす」る老人です。

NHK四国放送局がこの老人をとりあげた理由は不明です。

たぶん老人の並外れた目の光。家族のない70過ぎの老人が所帯道具を乳母車に山と積んで、一年中遍路道を往復する生き方、に注目したのでしょう。

素人カメラマンが永年この老人を追いかけて写真をとっていました。

カメラマンいわく。「目の光が鋭い」「老人が所帯道具を山と積んだ乳母車を押している姿が被写体として最高だ」

この老人、旅を栖としながら俳句を詠むんですね。まるで芭蕉じゃないですか。

芭蕉と違うのは自筆の原稿を紐で綴じ、世話になった人たちに配っていくところです。

芭蕉は色紙や短冊に自作を書き残したけれど、冊子にして配ってはいないようです。

ある寺の若い坊さんは、大感激してその冊子をおしいただいていました。そこまでするかと滑稽でしたが、若いだけにNHKのカメラを意識したのでしょう。

たまたま神奈川県警のデカが、深夜に再放送されたこの番組を見たんですね。

「天網恢恢、疎にしてもらさず」

古い言葉が蘇ります。

最初に放映されたのは四国地方だけだった。再放送は全国に流れた。これを神奈川県警のデカが見たというしだい。

老人の遍路姿は、強盗傷害犯人の世を忍ぶ仮の姿だったのです。

前非を悔い、遍路道をざんげして歩いていたけれど、お大師様はお許しにならなかった。

腰縄を打たれてから、罪を償う道は始まる、とお大師様はおっしゃっているようです。

ここでいつもながらのつけたしです。

味坊がお遍路の老人に惹かれるのは、前非を悔いているからではなく、遍路を行ったり来たりしながらも食っていけるというきわめて世俗的な方法で身をやつしていたからです。

単純に言うと、失職しても死ぬことはない、橋の下で暮らすこともない。お遍路さんになればいいじゃないか。ということですね。
2000/2/14 投稿 水鳥の背に水玉の光けり
2000/2/14 投稿 枯蓮(かれはちす)揺れて水輪の淡きかな
2003/8/14 投稿 ひぐらしや仮寝重ねし耳の垢
2000/2/14 投稿 麗らかや巫女の袴の翻り
2003/7/14 投稿 くちなはや逝きし連待つ脱衣場
2003/7/14 投稿 米櫃の底触れしより曼珠沙華
金の苦労を知らない人は、米櫃の底など見たことも触ったこともないでしょう。

味坊は、米櫃の底が見えるようになると不安がよぎる。もっと正直に言うと、目の前にパッと曼珠沙華が

咲きます。

白いのもあると聞きますが、味坊の目に浮かぶのは真っ赤な彼岸花です。

またの名を、死人花、地獄花、幽霊花という。まっすぐ墓場にいたるような名前ですね。

米櫃の底には一握りの米。冷蔵庫には、食パン2切れ、タマネギ2個、わさびのチューブ1本、醤油、ソ

ースそれぞれ小ビン3分の1。

台所に立つのは独居老人。そのうえ無職者ときては始末に困る。

NHKのニュース解説者は、自殺する者が年間3万人を越えると憂慮している。

まったく俳句なんぞをひねっている場合じゃありませんね。
2003/7/14 投稿 青芒ひと揺すりして切る縁
2000/10/14 投稿 子供消え踊りの列の細るかな
2000/10/14 投稿 秋の夜諍いはたとやみにけり
2000/10/14 投稿 行く道を探しかねたり冬の暮
2009/1/14 保留原稿 年齢を問わざる壁の冱てにけり
2000/12/14 佳作入選 倫敦塔外套足に絡みけり
2000/12/14 投稿 肌恋ふや逃げてまた寄る冬の蝿
2000/12/14 投稿 丹精の鉢植転ぶ野分かな
2000/12/14 投稿 独り居に穀象虫の湧きにけり
1999/10/14 佳作入選 借財の重さは知らず雀の子
2001/4/14 佳作入選 独り居に穀象虫の湧きにけり
2001/4/14 投稿 シベリアの冬と言ひさしコップ酒
2001/4/14 投稿 投票所出でて聞こえぬ春の雷
1999/12/14 佳作入選 セールスの果寂光の滝の音
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